経営お役立ちコラム
2025.04.23 【SDGs】
中小企業と取引先の人権
-課題、SDGsの目標と尊重される人権及び法令遵守事項-
1 取引先に関する課題、SDGsの目標及び尊重されるべき人権について
経済活動の中で、各企業は、その規模の大小にかかわらず、サプライチェーンと呼ばれる経済活動を行うのに必要な一連の流れ(例えば、商品の供給でいえば、原材料の調達から製造、加工、配送、販売により消費者に商品が提供されるまでの一連の流れを指します。)のどこかに位置付けられることとなります。こうしたサプライチェーンにおいては、企業規模の大小関係や取引依存度などを背景として、取引上、立場の弱い取引先に対して不利な取引条件を押し付けるなどといった問題がみられます。このような取引上の立場の優劣により、人権に対する負の影響が引き起こされます。具体的には、不利な取引条件を押し付けられた取引先は、公正・公平な取引条件であれば得られたはずの利益を確保できない結果、経営を維持する観点から経費を切り詰める方策をとらざるを得なくなり、その結果として、従業員に対して長時間労働や低賃金での労働を強いる、あるいは、業務委託先であるフリーランスに対しより不利な委託条件を強いるなど、弱い立場にある取引先の従業員等の人権侵害にもつながり得るのです。
また、自社が弱い立場の取引先に対し、不利な取引条件を押し付けることが、その取引先のより弱い立場の従業員等の人権に負の影響を与えてしまうことについて、想像することができず放置されてしまうという問題点もあります。
そして、このような問題は、何も大企業と中小企業間に限って生ずるものではありません。取引の相手方やその内容によっては、中小企業間においても生じ得る点には注意が必要であり、中小企業を含めたすべての企業において、自社の行動が上記のような問題を生じさせていないかという視点を持つことが重要です。
SDGsの目標のうち、「8 働きがいも経済成長も」、「10 人や国の不平等をなくそう」、「16 平和と公正をすべての人に」、「17パートナーシップで目標を達成しよう」は、上記のような取引先を取り巻く課題の克服に関連します。また、取引先に関して尊重されなければならない人権としては、日本国憲法において、法の下の平等(憲法14条)や勤労の権利等(同27条)といった権利が関連します。
2 取引先に関する法令遵守事項の概要について
取引先の人権に配慮した経営の実現のためには、SDGsコンプライアンス(法令遵守)の状況を確認することがその第一歩となります。取引先を取り巻く上記問題を予防・克服し、取引先の従業員やフリーランスとして働く方々の人権を守るため、日本法においては、下記の法令が整備されています。下記(3)のフリーランス新法は、2024年11月1日に施行された新しい法律です。
- (1) 下請代金支払遅延等防止法(下請法)
- (2) 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(独禁法)
- (3) 特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(いわゆるフリーランス新法)
SDGsコンプライアンスの遵守により、取引先との公正・公平な取引が実現され、当事者双方が適正な利益を確保することができる結果、自社のみならず取引先においても魅力ある労働環境を整備することもでき、ひいては、従業員の幸福感・モチベーションを高め、企業経営の持続可能性の維持、増大に資することにつながります。
このような取引先・従業員等の幸福が会社の持続的発展に結びつく好循環こそが、取引先の従業員等の人権を尊重する重要な意義であるといえるでしょう。
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